綱渡りのコンクール
先日の8月1日GLC学生ギターコンクールにおいてうちの生徒さんが中学生の部で2位に入賞しました。
おめでとうございます。
本選はJ.K.メルツのハンガリー幻想曲を弾きました。
6月のジュニアの時も2位に入賞してお祝いの記事を書いたので、毎回お祝いの記事を書くのもしつこいかな、と。
しかしある高校の横を通った時、〇〇部全国大会出場みたいな横断幕が掲げられていてやっぱり書いた方が良いのかと考え直しました。
今回はレッスン期間が2ヵ月弱、レッスン回数が4回しかないのにジュニアの時とは別の曲を弾くことにしたので中々ハードでした。
しかも受験生で間に修学旅行もあって完全にギターが弾けない期間も含まれ…よく入賞まで行けたなあ。
一応その前から譜読みはしてもらっていましたが、流石に4回のレッスンではハンガリー幻想曲と2次予選のメヌエットは仕上がらないという事で、週2回演奏動画を送ってもらってそれを繰り返し聴き4時間くらいかけて毎回改善点を書き返信してレッスンの補足を行いました。
2ヵ月間、生徒さんとお母様を中心としたご家族と私が一つのチームとして一丸となって取り組みましたが良い結果に繋がって何よりでした。
2次予選のメヌエットに関してはお母様からネットに挙がっている動画に比べてテンポがやや遅いような気がする、というご意見もありご心配をおかけしましたがなんとか2次審査を通ってホッとしたというのが正直なところです。
うちの生徒さんのテンポは吉幾三さんの「おらこんな村いやだ」位の設定でした。
あの曲大好きです。
このF.ソルのメヌエットハ長調Op.25は第2グランドソナタの終曲として配置されています。
曲の最後で盛り上げるため、そしてAllegroという速度記号もあり、速く弾くイメージを抱くのは当然だと思います。
そうなんですが、ちょうど少し前にバロックダンスのDVDを購入し、メヌエットのステップの勉強もして軽く踊っていたところメヌエットに対して軽いけれども速い印象が持てないと感じました。
とは言ってもバロックと古典では時代が違いますし、舞踏伴奏曲と純粋な器楽曲の違いもありますし、同じメヌエットでも演奏は変わります。
ソルはOp.11-5 ,11-6 と他にもいくつかメヌエットを書いていますがそれですらそれぞれ結構な違いがあります。
ただOp.25は楽譜から舞踏曲の残滓のようなものが私には感じられ、テンポを上げることに迷いがありました。
それでヘンデル、J.S.バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトとそれぞれの時代を代表する作曲家のメヌエットを聞いたのですがやはり速いテンポで弾いている方はざっと見たところおらず、テンポを極端に上げることはしませんでした。
その代わり軽さをかなり追求しました。
軽い演奏とは何かと言うのは難しいですが、
・余計な場所にアクセントを付けない
・共鳴も含め、その小節内で不要な音が鳴らないようにする
・休符をしっかりとる
と私は考えています。
他にもグランドソナタの終曲として弾くのか、メヌエット単体で弾くのかといった問題もありました。
前者なら盛り上げるため表現はやや大げさに、後者なら王侯貴族に愛され100年間以上も舞踏会の花形ダンスとして踊られたメヌエットの名残りを残し優雅に上品にあまり表現はくどくなく。
私は後者を選びました。
この選択は中々難しい問題です。
あるピアニストの方が昔コンクールでとある組曲の中の1曲だけを課題曲として弾いた時、組曲の流れからの演奏表現ではなく、単体で演奏するならこうした方が良いと表現を変えたらしいんですね。
結果、審査員の先生の一人からこの曲はそうは弾かない方が良いと言われたそうです。
あくまで組曲の中の1曲としての表現が望ましいという事でしょうか。
この話はGLCの後で聴きましたがうーむ…危険な選択をしたものだと怖くなりました。
実際他の参加者の方達はうちの生徒さんよりテンポが速めで演奏表現も華やかだったそうです。
それは予想できたので、練習室で他の人が速く弾いていても焦らず自分の今までの練習通りに弾く事を目指そうね、と言っていたので彼はかなり安定した演奏ができたようですがやはり不安はあっただろうなあ。
まあこの2次審査の課題曲のメヌエットを演奏するにあたってそんな葛藤があったのですが、審査に通って本当に良かったです。
通らない可能性もある事は覚悟しており、謝罪の文言も考えておりました。
こんな事が合ってもいくつかの曲の集合群の中から1曲弾く場合は、私は恐らく表現を変える事を選ぶかもしれません。
本選で弾いたハンガリー幻想曲は10弦ギターで弾くための曲として作曲されています。
ギタリストの鈴木大介さんがちょうどこの曲についての記事を書いていて、その10弦ギターのお写真なども見られるのでご興味のある方はブログを覗いてみてください。
そうなっているの?!とちょっとびっくりすると思います。
そう言う曲ですので、6弦ギターでは出せない音があったりでこれはコンクールで弾いて良いのかな、と思わなくもなかったのですが、生徒さんの大きな課題を解決するために早めに弾いておいた方が良いと選びました。
コンクールに出るような方は演奏記号は自分で調べるよう癖をつけたほうが良いのですが、今回は時間もないので私が一覧を作ってお渡ししました。
これで結構解釈が変わるのであくまで参考程度にお考え下さい。
その中で2小節目にCon animaと言う記号があります。
これは「活き活きと、活気を持って」という意味で使われるのが一般的だと思います。
しかし、その意味が曲調とどうも合わないので検索していたらCon animaは「祈る様に」という意味が正しく、「活き活き」とは間違いだという事を書いていらっしゃる方のサイトを見つけました。
なるほど、祈る様には2小節目には合っていると思ったのですが、更に調べても「活き活きと」ばかり出てきてやっぱり「活き活きと」なのではないかと悩んでしまいました。
受験の時に使った楽典を見ても「活き活きと」、少し古いですが文化庁の公開している音楽用語集も同じ意味の「活気をもって」と言う意味で掲載されています。
下のPDFの22ページに掲載されています。
うーむ…と唸り図書館に行きイタリア語の辞書を調べると
>anima:魂、霊魂、精神感情、人間。
>例文 cantare con la anima 情感を込めて歌う
と書いてありました。
これはどちらかと言うと「祈る様に」、「魂を込めて」寄りですね。
laが気になる所ですが、ようやく「活き活きと」ではない説が少し補強されました。
音楽に詳しい方にも相談したのですが、その方は「オクターブで跳躍するからその動的な部分に対しての記号という事も考えられるかも知れない」と仰っていてそれもなるほどと頷けました。
結局演奏者がこの2小節目に対して抱く印象次第という事で、生徒さんには音大受験とかなら絶対に「活気を持って」が正解だけど「祈る様に」や「情感を込めて」が本来の意味だという説があると伝え、どっちの印象が強い?と聞いて後者となりました。
この結論が正しい音楽用語の観点から見て合っているかはわかりませんが、自分が納得のいく表現で弾くというのが一番だと思います。
だから2小節目のCon animaが「活気を持って」という意味が相応しいと思った方がいたとしてもそれは正しいと思います。
文化庁的にはそちらが正解ですし。
他にも46小節目にあるLugubre:悲しい、哀れなという箇所もここヘ長調の主和音で始まっていて和音の響きが明るいんですね。
だから生徒さんも元気に弾いちゃうし困りました。
悲しいといか寂しい感じを出すために苦労しました。
イメージとしては黒澤明監督の「生きる」の主人公の後半みたいな感じなのですが、中学生にそれは伝わらないよなあ、と。
でもそういうのを早めに体験してほしくてこの曲を選び、最終的には良い感じに表現出来てきてホッとしました。
彼は小学生の頃はコンクールで入賞したりしていたのですが、段々それが難しくなり、2次審査に通らなくなり、とうちに来たので今年は2つのコンクールで入賞出来て何よりでした。
終幕後特別審査員の大萩さんが疲れているでしょうにロビーで個別に講評をしてくれ、一緒に写真も撮ってもらったそうです。
あの方は天使か何かなのかな。
これで取りあえずセンセーとして義務は果たしたので来年の夏は遊びます!!!
今回のような手厚い?サポートはできない事をここに宣言します!!!
あと受験頑張ってね!
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