第3回ネットで発表会♪
本来は10月9日にこちらを公開しようと考えていたのですが、私の体調不良で皆様の演奏をご紹介するのが大幅に遅れてしまった事、深くお詫び申し上げます。
本当に申し訳ございません。
それでは皆様の演奏をご紹介していきます。
ご紹介順は正式にご参加の連絡、演奏データを頂いた順番となります。
No.1 Lejos de Casa/Maximo Diego Pujol
マキシモ・ディエゴ・プホールはアルゼンチンのギタリスト、作曲家です。
曲名は「家から遠く離れて」「遥かなる故郷」と言った意味でしょうか。
違っていたらすみません。
今年1月の発表会に参加された時はクレンジャンスのラ・ミラネーゼを見事に演奏されましたが、今回も流石の出来に仕上がっています。
1月の発表会後、「音色の種類を増やす」「和音の響かせ方の追及」「テーマ、移行部、終結部といった各パートの演奏表現の弾き分け」等をより明確に目指して今回の演奏となりました。
この曲は聞いて頂けばわかると思いますが、おしゃれと言いますか、少し複雑な和音が使われています。
そういった和音はどう弾けば良いか、2人で相談して決めていきましたが、和音に対する感性が豊かで話していてとても楽しかったです。
例えば冒頭に出てくるこのようなシンプルに見えるフレーズ。
「最初の低音のミ(赤い音)を2拍目で消音するのが一般的ですが、消音しないとホ長調なので主音の保続となりやや安定した響きになります。どちらが良いと思いますか」と弾き比べながらその響きの違いを感じたり。
そういった事を結構細かく確認しながら最後まで進めたので、演奏もお見事ですが今回和声感が相当磨かれたと思います。
38秒当たりの和音の響かせ方とか痺れますね。
今回培ったその感覚をこれからどんどん育てられるように努めたいと思います。
No.2 Melodia de uma noite(夜のメロディー)/Silvestro Fonseca
ワルツOp.32-2/Fernando Sor
夜のメロディーとワルツの2曲でのご参加となります。
Silvestro Fonsecaと言う方は不勉強で存じ上げなかったのですが、ポルトガルのギタリスト、作曲家だそうです。
柔らかく、切なく、深い、そんな印象をMelodia de uma noite(夜のメロディー)から受けました。
この方も1月の発表会に参加され、その後1番目の方とほぼ同じ、「音色の種類を増やす」「和音の響かせ方の追及」「テーマ、移行部、終結部といった各パートの演奏表現の弾き分け」などの課題を目指しました。
元々旋律を美しく紡ぐのがお上手で、この曲の魅力を良く引き出せていると思います。
この曲も複雑な和音が使われており、それをどう弾くか、そのあたりを分析しながら表現を作っていきました。
ソルのワルツは1月の発表会後の課題曲として私が提案いたしました。
なぜこの曲を選んだかというと、拍子感、調性感、音色の変化を学びやすい曲だと感じたからです。
ホ長調から同主短調に転調する曲ですが、比較的シンプルな和声進行で調性感が学べます。
その調性の変化を音色変化や和音の鳴らし方を中心に表現する事を行って頂きました。
一番大変だったのは拍子感だと思います。
装飾的な細かいフレーズが多い中、ワルツの軽やかな3拍子感を損なわずに演奏する、そのあたりが課題でした。
今回その課題の1回目の曲として、良く仕上がっていらっしゃいます。
引き続き、拍子感を育てるエチュード的な役割として、なんらかの舞曲を弾いて頂くこととなっております。
No.3 フリア・フロリダ/Agustín Barrios Mangoré 鈴木大介編
バリオスは多くの名曲を遺しているパラグアイの作曲家です。
このフリア・フロリダも多くの方が愛する曲で、うちの教室でもいつか弾いてみたいという方が何人もいらっしゃいます。
8分の6拍子のバルカローレでゆったりとしたリズムや美しい旋律が、穏やかな昼下がりに湖や広い川の船上にいるような気持ちにさせてくれる、そんな曲です。
レッスンでは6拍子のリズム、和声による表現、声部の弾きわけ、移行部の弾き方や間の取り方、転調の連結などをお伝えしました。
暖かな雰囲気が良く出せている演奏になっていると思います。
全体を支える低音やハーモニクスの響かせ方、拍感が素敵です。
この方は昔は対面レッスンをさせて頂いたのですが、3年?程前に遠くに引っ越されたため現在は月に1回のオンラインレッスンのみとなっています。
この曲の魅力を良く引き出した演奏ができていると思いますが、正直オンラインレッスンのみでここまで弾けるようなレッスンをする自信はありません。
この方はその前の対面レッスン歴が長く基礎的な技術を修めており、じっくり丁寧に課題に取り組み、感性が豊かでそれを演奏に反映できるようにピンポイントで努力されたから今回のような演奏ができたのだと思います。
オンラインレッスンのみでここまで弾けたのはもう本当に凄いと思います。
No.4 Etude Op.35-22「月光」/F.Sor 中学3年生
動画はご自身で作ったそうです。
曲のイメージがよく反映されています。
最近の若い子は凄いですね。
私は18歳くらいまでパソコンに触ったことも無かったです。
月光の愛称で知られるこの曲は、彼のおじい様が好きな曲です。
彼は少し前におじい様から愛用していたギターを譲り受け、そのお礼のような形でこの曲を弾くこととなりました。
おじい様が弾いていたこの曲の表現を中心に、さらに彼が小学1年生から学んできたクラシックギターの技術、演奏表現を加え、曲を仕上げました。
言わばおじい様と彼の絆を新たにまた一つ紡ぎだすような作業です。
そういった背景があるため、あまりレッスンで演奏表現に口を出しませんでした。
それでも彼は小学1年生からもう約8年私に習っているので、一人でほとんど仕上げてしまいました。
表現のベースとなるおじい様の演奏が相当お上手だったこともあるのでしょう。
8年も接していると親戚のおじさんくらいには親しみを持っているのですが、その感性の成長や今回の様な動画作成の技術などを見てこの子は立派な大人になるんだろうなあ、と将来を楽しみにしてしまいます。
私のレッスン内容は、転調部分や属音の内声保続の表現、アルペジオ(和音の構成音を1つずつ、あるいは複数ずつ分散した弾き方)の曲ではあるが、同時に3声を中心とした進行となっている、といった曲の構成とその弾き方くらいかな。
他に映画「禁じられた遊び」で有名な愛のロマンスとロベール・ド・ヴィゼーの組曲ニ短調の中からサラバンドを並行してレッスンしており、こちらもほぼ一人でとても良く仕上げていました。
私のレッスンの目標の一つは「レッスンを受けなくても自分一人で曲を仕上げられるような人を育てること」なので、彼はそういう状態になりつつあるのかもしれません。
中学3年生ということで受験勉強に専念するため、9月からレッスンを休止というか一時退会していますが、そんな状況の中ご参加誠にありがとうございました。
受験勉強大変だと思いますが、無理はせず体調に気を付けてお過ごしください。
No.5 組曲ニ短調よりメヌエット、ガボット/ロベール・ド・ヴィゼー
バロック時代後期、ルイ14世に宮廷音楽家として仕えたロベール・ド・ヴィゼーの組曲からの2曲です。
バロック時代はホモフォニーと呼ばれる、いくつもの独立した別々のリズムを持つ旋律が織りなす和声の曲から、一つの主旋律に和音が付き同一のリズムで進行することが多いポリフォニーに徐々に移行していった時代です。
この曲はその両方の要素を含んでいますが、ホモフォニーの色の濃いフレーズは弾き分けが難しいです。
おまけに舞曲なので、アクセントコントロール、特に不要な場所で力んでアクセントをつけない注意が必要です。
そのために、通常のテンポよりやや遅めで演奏していただきましたが、その分異なる進行をする声部それぞれを聞きやすい演奏になったと思います。
同組曲のほかの曲も練習してきたので、いつかぜひ組曲通してで弾くことを楽しんで頂ければと思います。
組曲は配置される曲のリズム、そして各曲の適正テンポによる緩急の差が大きな魅力となります。
レパートリーとして弾きこみ熟成させ、そのあたりも組曲として弾くときに意識されると楽しみが広がるかも知れません。
この方は他にもカルカッシのエチュードを複数、並行して練習されていて、基礎的な能力もどんどん伸びています。
これからが楽しみです。
No.6 ハンガリー幻想曲/J.K.メルツ 中学3年生
2年ほど前からレッスンさせて頂いております。
6月初頭までジュリアーニの大序曲を弾いていて、夏のコンクールのため約2か月でここまで仕上げました。
この動画は7月の終わりに録画したものです。
途中修学旅行も挟んだり、受験生ということで相当ハードなスケジュールとなりましたが、ご家族の手厚いサポートと持ち前のガッツで乗り切りました。
この曲は敬虔さ、情熱、悲哀、寂しさ、熱狂…様々な人間の感情が曲に込められているように感じます。
お聞きの通り非常にテクニカルなパートも多く、技術がなければこの曲の魅力を聞く人に伝えられません。
今まで努力し築き上げてきた確かな技術が、演奏を素晴らしいものにしていると思います。
この曲に限りませんが他に重要なこととして3点。
「様々な感情を音で表す経験」、「音楽的な知識」、「曲・旋律・和声から適切な表現を当てはめる感性」。
彼はもともと高い技術はありましたが、まだうちに来て間もなく、若いのでその他の3点を私が補完した感じです。
消音、和音の響かせ方、演奏記号にそっての表現、転調の連結、フレーズの役割、強弱、音色、2か月と短い期間でしたが徹底的に指導させて頂きました。
と言っても私も未だ作曲の先生に楽曲分析のレッスンを受けている勉強中の身で偉そうなことは言えないのですが。
まだ若いのでこれから様々な経験をし、それを演奏に反映し、知識や感性を磨いて自分の音楽を築き上げて欲しいと思いますし、彼ならそれは充分可能だと思います。
レッスンでもそれらが身に付くような内容にしようと少し前から工夫を始めました。
彼のこの曲の演奏についてはレッスン期間2ヵ月ながらあまり言う事はないのですが、この曲は10弦ギター用の曲で6弦ギターで弾くために実は音を省略したり、低い音を時に1オクターブ上げて弾いています。
少し前にクラシックギタリストの鈴木大介さんが「浪漫の薫り」という8弦ギターで弾いたロマン派の曲を収録したCDを出しているのですが、その中にこの曲も収録されております。
そちらは音の省略もなく、きちんと低音も原譜通りに演奏されているので興味があったら聞いてみてください。
彼にもコンクールで頑張った記念にそのCDをプレゼントしましたが、「音の重厚さがあって凄い!」、と言っていました。
私は電子ピアノで原曲再現はしていましたが、やはりギターならではの響きを聴くと、「本物はこうなんだー」と非常に勉強になりました。
彼も受験生ですが、レッスンの継続をご希望なので無理のない範囲で色々なことを並行してお伝えしていきたいと思います。
おまけで私の演奏。
BWV997 リュート組曲第2番よりサラバンド イ短調(原曲ハ短調)
こちらは9月の半ば、髪の毛を短くしたばかりの頃に撮影したもので、こう見ると地肌が目立って演奏より頭に目がいきますね。
今はもう少し伸びています。
服もインナーが出てて恥ずかしい。
体調が完全に良くなったらもう一度撮影しようかと考えております。
大バッハの弟子のアグリコラの写しから移調し、自分の納得いくオリジナルの版にはなったのですが、その分難しくなってしまいちょっとミスもあります。
演奏は調性や和音の響かせ方、そのための消音を工夫しましたが、上手くいったかどうかはよくわかりません。
バッハの難しさが改めてわかりました。
以上で第3回のネットで発表会♪終了となります。
今回偶然なのかわかりませんが、技術的なことをお伝えする必要があまりなく、「演奏表現」「曲の理解」が中心のレッスン内容だった方々が集まった気がします。
こんなにお上手な方々の演奏を毎レッスン聞けるなんて自分はつくづく幸せだなあ、と今回皆様の演奏を聞いて感じました。
ご参加本当にありがとうございます。
新型コロナ・ウィルスにより舞台での発表会を控えざるを得ない時期に苦肉の策として生まれたこの催し。
以前のようにお客様にご来場頂ける演奏会・発表会ができるようになりましたが、今後も定期的に続けようかと思います。
以前に初参加された方は「録音して聞いてみたら自分がイメージしていたものとだいぶ違った」と仰っていました。
思ったより音が割れていたり、音がつながっておらず切れ切れなメロディーだったり、思ったより遅かったり。
「参加してそれがわかって良かったです」とも仰っていました。
弾くという作業で脳の容量の大部分を使っていて、聞くという作業があまりできないと「実際の演奏」と「自分ではこう弾けていたというイメージの中の演奏」の「差異」が発生します。
私も同じ経験がありますし、今もやはりそういう「差異」はあります。
恐らく多くの方がそういった経験を経て、「弾く」と「聞く」の両立を獲得していくのだと思います。
繰り替えし録音、録画し「差異」を認識する。
そしてそれを修正していく。
それが「弾く」と「聞く」の両立を獲得する有効な手段だと考えております。
この催しがその一助となりましたら幸いに存じます。
そして公開が遅れたこと改めてお詫びします。
誠に申し訳ございませんでした。
市川亮平
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