1年後の宿題

前回BWV1000(リュート)と1001(バイオリン)のフーガの分析の挫折の話をちょろっと書きました。
それもこれも圧倒的に知識・分析経験が足りないからです。
1月終わりから断酒もして仕事以外ずーっとこれをやっていたんですが中々厳しい。
とはいえ頑張って本日レッスンでBWV1000を23小節目まで見て頂きました。
BWV1000.png

またしても良い意味で「何もいう事が無い」と言われたのですが、素直に喜べず現状の悩みみたいなものを先生にお話ししました。
そして現在の曲はレッスンで分析しつつ、和声と対位法のレッスンも受けることに。
ゴールはフーガの作曲とは言わないですが、それに近い課題をできるようになることです。
悩みと言うのはフーガは様々なパターンがある。
例えば平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番はフーガの主題に対する対位主題的な対唱が無く、主題と主題をつなぐ重要なパートである嬉遊部もない。
主題と自由唱とストレッタのみで構成されているんですね。
学習フーガの教本を読んでいる者からするとそんな事言われたらどう分析して良いかわかりませんとなったり。
だからこそ面白いのですが、そういった変則パターンの分析となると経験値が圧倒的に足りないと感じてしまったわけですね。
そして分析した事の有る方ならわかって頂けると思いますがBWV1000や1001も結構変則的。

目標はフーガの様々なパターンを経験し、引き出しを増やし、ある程度悩まずに分析できることを目指す。

しかし5月の演奏会では演奏後分析した内容の講義っぽい事をしなければいけません。
今のままだと恐らく40%くらいわからない事があるまま臨むことになります。
そんな人間が人前でその対象について語って良い訳はありません。
これから1年様々なパターンのフーガをできるだけ学び、それを分析する手法も学び、1年後にこの曲を演奏会で弾こうかと思います。

演奏は12月から弾いているのでそれっぽくは弾けると思いますが、
理解・説明には時間的に間に合わなそうなので別の曲を演奏をします。
多分リュート組曲2番のサラバンド。
ちょっとやり残したことがあったので良い機会かなあと。

でもBWV1000と1001の分析はまだ途中までですが、苦しくも楽しかったのでこのまま続け、レッスンもこの曲を最後まで受ける予定。


とりあえず分析していて楽しかった思い出を少し記します。
BWV1000はギター用に編案された写真の2冊と「ヨハン セバスティアン バッハリュートのための作品集 水戸茂雄編 N&S古楽研究会発行」と手稿譜のリュートタブラチュアを参考にしています。
DSC_3119.jpg
左は両方ト音記号の2段譜となっていて右は1段譜です。どちらもイ短調に移調してあります。
水戸茂雄氏の著作はリュート用の楽譜なのでタブラチュア、ト音記号とヘ音記号の2段の五線譜2種類の楽譜となっておりリュート用なのでオリジナルのト短調。


バイオリンはこちらと手稿譜の5線譜を参考に。
DSC_3118.jpg
左の楽譜はギター用となっていますが6弦=Gの調弦で原調のト短調で弾けるようになっています。すっご。

とまあやっていたのですが、両曲とも第1主題提示部を見る限り4声の曲だと思いますが、4段の分析譜を作るのが本当に難しい!!!
今まで分析していたクラヴィーア曲集第1巻第16番ト短調のフーガは学習的フーガに近い構造で大変わかりやすかったのですね。
ところが今回は楽器の特性、音域や奏法から作曲上の制限があり、その制限の中でとても工夫して作曲したというのはわかるのですが、その工夫により分析が難しくなっている。

心が何度か折れながらしかしとても楽しく過ごしました。
何が楽しかったかと言うとまずBWV1000(96小節)と1001(94小節)の小節数の違い。
第1提示部
リュート版のBWV1000はフーガの実習/島岡譲 国立音楽大学の「フーガの第1部:主要提示部」の第2式が当てはまり、
主唱Ⅰ:アルト-答唱Ⅱ:テノール-主唱Ⅱ:バス-答唱Ⅱ:ソプラノとなります。
一方BWV1001 はよくわからない。
同種声部転移を行っているような、でもそれにも当てはまらないような。音域的な問題で工夫したのかなあ。
第3式ぽい気がするけどわからない。
まあ学習的なフーガと作品としてのフーガは少し違うというのは理解しているつもりなのでそのあたりはそういうものだと適応しました。
その後BWV1001 は6小節自由唱の結句を経て7小節から第1嬉遊部に移るのですがBWV1000は少し違います。
5小節3拍目裏からストレッタ(追拍部)となりその後嬉遊部に移ります。
これが2曲の小節数の異なる1つ目の理由。

はい!ここでストレッタ(追拍部)についてド素人ながら簡単な説明をさせてください!
通常フーガはこのように主唱(赤カッコ)を弾き終わったらその主題を5度上げて、または4度下げて答唱(青カッコ)と呼ばれる演奏をします。
例外はありますが置いておきます。
主唱はその後答唱に対する答対唱(答唱に対する対位主題)と呼んだりする緑カッコの対位主題に移ります。
下の楽譜は赤カッコが終わったタイミングで青カッコになっていますよね。
普通はこの流れです。
BWV1000フーガ2.png

余談ですがBWV1000は主唱の主尾から対唱において完全4度の跳躍の反復となっております。
音楽修辞学でこの4度の跳躍を天使の4度などと称するらしいです。
私はイマイチこれがピンとこなかったのですが、この曲の対唱でなるへそと実感しました。
天使かはわかりませんが幸せな感じ。
曲の雰囲気もあるので4度跳躍が必ずしもそうという事ではないとお考えください。


それで追拍部。
下のBWV1000の5小節3拍目裏から赤カッコがありますがさっきの楽譜と違い、赤カッコが終わらないうちに青カッコが始まります。
これが追拍部。ストレッタと呼ぶことが多いと思いますが、「追拍」の方がイメージしやすいかなと。
1000ストレッタ.png

ちなみにBWV1000の60小節と1001の58小節はこんな感じで主題の変形を2声同時に弾くのですが、これが楽器の特性上ストレッタができないためのバッハの工夫かなあとか妄想したりしています。
主唱と答唱3.png
一概には言えませんが緊張感が出たり、盛り上がったり、そんな効果があります。
作曲の先生が、先日パリのオーケストラでヴィオラを弾いていて自身のコンサートでBWV1001フーガを演奏したご友人にわざわざこの私の妄想の是非を質問してくださったそうで、本当に申し訳ないと恐縮するばかりです。
先生、ご友人様ありがとうございました。

他にはBWV1000 7小節目。
参考にした楽譜はこのようにソプラノ「ファ-レ-ミ」テノール「ドーシ-シ」となっていました。

1000フーガ7.png

しかし3拍目のソプラノ「レ」とテノール「シ」を入れ替えると1ー2小節と同じ主唱と対唱そのままの音型が見られます。
BWV10007.png

なんだか隠されていた宝を見つけたようで面白かったです。
実際それを意識して弾くととても楽しい。

あとはやっぱりこれですねー。
9-12小節の第1嬉遊部前半。
1段譜でも2段譜でも一見2声と読める(よんでしまう)記譜。
BWV10009.png

私はここを無理矢理3声にしてしまいました。
BWV1000913.png


midi演奏だとこんな感じ。
1段譜


3声
レッスンで提出用の楽譜にはこんな注釈を書きました。
「第1嬉遊部の声部の把握は難しい。 ギター用1段譜、ギター用2段譜、リュート譜、一見どれも2声部で進行しているかのように書かれている。 バイオリン版は1声部進行のように見える。 しかし、和声、対位法的な見地から、また、嬉遊句に対する対句を考え、ソプラノが休止の3声進行だと判断した。この見方をするならバイオリン版は2声部進行となる。 9小節3拍目、10-12小節1,3拍目のアルトテノールの4分音符(赤い音符)は本来は16分音符で書かれている。 4分音符にしたのは和声を感じるための補完であり、また対位法的な「他声部を仮の定旋律として対位主題を描く」と言う作曲法を視覚的にわかりやすくしようとしたため。 この嬉遊部の特徴は調性の緩やかな下行だろう。 e-mollから2拍あるいは4拍ごとにd-moll、C-dur、G-durと緩やかに下り主調a-mollに至る。 バスは各和声の根音を鳴らし、不安定な調性の進行が完全に崩れないよう支えている。 11小節3拍目にバスが無く、4拍目に2つの和音を想定できるのは主調a-mollに向かうための調性の揺らぎを一層強くしたかったからだろうか。」
最後のG-durはa-mollドリアのⅣからⅤ根音第3音省略の方が適切な気もします。

生意気に対位法的な見地とか言っていますが、まだ対位法を独学で学んで2ヵ月なものでド素人が覚えた知識を使いたい症候群に陥っていってしまう例のあれだとお考え下さい。
まあこれが合っているかはわかりませんが、ここを作っていてこれ4重奏の楽譜が作れるのでは?と浮かびました。
絶対弾いていても聞いても楽しいと思います。
分析譜を作り終えたらそっちも作ろうかなあ、聞きたいから。
多分そうなるとソプラノを弾く人は7小節目絶対対唱と同じファシミで弾きたいと言い出すと思うんですよ。

他にもまだまだ楽しいことは沢山あるのですが、きりが無いのでこの辺で。
1年後それはもう完璧に分析して帰ってきます!たぶん…

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