半年前の自分は思ったより頑張っていた
BWV997 リュート組曲第2番よりサラバンド 分析と表現
主調:a-moll(原曲c-moll)
構成:前半16小節、後半16小節の2部形式。前半後半ともさらに8小節ずつのまとまりとなるため
1-8小節をA-a、9-16(17)小節をA-b、18-25小節をB-a、26-33(34)小節をB-bと区分する。
この4つの楽節をそれぞれ順番に
1「全体の特徴」
2「小節ごとの特徴/得られる感覚/そこから創る演奏表現」
の順で考察していく。
【A-a】
楽節全体の特徴:ほぼa-moll中心となる。
5小節目でⅣ調のd-mollになるがすぐにa-mollに戻るため、ほぼ単一の調と言える。
主音であるaの音がほぼ全てに渡って低音保続されており、曲の安定を図る、主調を聞く人に定着させたいという欲求を感じる。
バスは通奏低音的に4分音符で各拍表に配置され、基本的な3拍子のリズムを作ることが多い。
1(小節目):内声6度の進行が綺麗に届くように、しかし内声を強調しすぎない。
私は6度の響きに安定を感じる傾向があるので重くならないように気をつけたい。
1拍目後半32分音符は2拍目に吸い込まれるように向かう。
それによりサラバンド特有の2拍目にくるアクセントが自然と生まれる。
サラバンドは2拍目が重くなるからと言って過度に強調するのは避ける。
ここはバスが1拍目と比べ1オクターブ下のaが配置され、1拍目からの装飾的な32分の上下行でさりげない重さが出るよう配慮されていると思う。
個人的な6度の響きに対する安定は置いておいて、多くの人にとってここは和音が詰まっているが、それゆえ重くならないように1拍目の32分音符から少し前に向かうように弾くのが良さそうだ。
・疑問2,3拍目の低音は本来オクターブ下だが6弦ギターでは表現に工夫が必要。その表現はやはり強調かあるいは音色か。
2:1拍目6度がここにも含まれている。1小節目からの5度の下行。その連結を意識したい。
1小節目と違い和音は最初のみ。2オクターブ下で低音が主題を再現。
和音がないため1拍目より自由に弾ける。
強弱は自由だと思うが、1小節最後の和音から完全五度下に跳躍進行するため、私は収めるようにやや弱く弾きたくなる。
和音はどちらかと言うと収まるが、バスが主題再現のため動きがある。
3:上3声は2小節1拍目と同じだがバスが異なる。
1-8小節目はa-mollの主音aが低音保続されていることが多いが、1拍目バスにはgisが配置され属7の第1転回型となっている。
2,3拍目も和音は同じだがaの低音保続が再開されている。
属7の和音ではあるがここはあまり強くならないように弾きたいと感じた。
主音の低音保続による安定した雰囲気を壊したくない。
1,2拍目も6度の響きが使われている。1拍目から2拍目に上行6度跳躍がある。
3拍目は6度の響きが無くなり、7小節目で6度の跳躍はあるものの以降和音潜める。
3拍目は音数が減るが、次に向かう動きを出しやすく、また作曲者の意識的、無意識的にしろそういった意図を感じる。
各拍頭にgisあり1,2,3拍と順に1オクターブずつ上行しているのが面白い。
どうやって弾こうか思案中。
1-3小節の6度の響きは後半
4:主和音となるが上声は1拍目c-h-c-hと迷ったようなうろうろしている感じがある。
どっちに行こうかなー。
同弦で弾かないことにより両方を不協和的に響かせその迷いを表した。
サラバンドで重要な2拍目で上声に主音が置かれる。1小節目からここに向かっている気がする。
しかしゴールではなく、マラソンで言う第1中継地点のようにさらに先に向かう。
注目すべきはバスが休符で途切れている事。
枷が外されたかの如く、軽さや前に向かうエネルギーが素直に表せる。
弾いていて楽しいのだが、クレッシェンドやアッチェレランドをし過ぎてこの曲の「抑制された雰囲気」を壊さないようにしたい。
5:わかり難くd-mollに転調。わかり難くと書いた理由はCisやhがあり、d-mollだと感じられるが、主音であるdが出てこないため。
そしてすぐにa-mollに戻る。
主音dを省いたのは調性を完全に確定させたくなかったからだろうか。あるいはその方が相応しいと感じたからか。
次の6小節でa-mollに戻るため借用和音的な扱い。
特徴としては1-2拍目でシンコペーションがある。
通常シンコペーションはアクセントが移るが、私はこの1拍目裏を弱めに弾きたいと感じた。
推測だが4小節2拍以降1声進行で軽かったので、いきなり1拍目aを含む3声となったここでアクセントを少しでも入れると突然重くなりすぎる、そして2拍目拍頭でバスはaを弾くためアクセントの連続が起こり、上声のアクセントの移動は行ってはいけないと感覚的に捉えたのではないだろうか。
この曲全体を通して感じた事だが、通常緊張・不安定を感じさせるドミナントやこの一瞬のd-mollのような異物を強く弾くことは曲全体の雰囲気・ある種の格調のようなものを壊してしまう気がした。
6:a-mollに戻る。1拍目cis-dはまだd-mollの余韻を残し、2拍目でa-moll主和音が来て主調に戻ったことが確定する。
楽譜には赤で示したが、対旋律的な2つの旋律がこの小節と次の7小節に配置されていると感じた。
上声は上行、内声は下行し、反行の美しさがある。
そのため2,3拍目の拍頭のf、a、eは伸ばすことにした。
7:Ⅴの副5、属9の第3転回形または主音の低音保続。
2拍目まで前の小節からの対旋律は続き、そこから8小節1拍目、そして2拍目の半終止的a-mollの属和音に向かい前半を終える。
対旋律の終わる2拍目から2回の段階的な上行により緊張、エネルギーが高まるのを感じる。
しかし最後の長6度の上行跳躍にそれを逃すような役目もある気がする。
今まで淡々とバスを弾いていたが、3拍目のバスはそのエネルギーを支えるように少し太く弾きたい。
8:1拍目はこの曲で出てくる5つの音で構成される2つの和音のうちの一つ。
しかし6弦ギターでイ短調で弾くと再現できないため、泣く泣く和音の第5音を省略した。
それでも属音低音保続で減7を含むその特別な響きは非常に魅力的だった。
この曲はリュートのための曲なので、和音を崩しても良い箇所は多いというかその方が自然だと思われるが、現在は和音の響きの勉強のためあまり崩さないで弾いている。
しかしここは原曲では音が5つの和音という事で崩した。
非常に不安定で印象に残りやすい強い響きなので、曲調に合うよう強く弾かず7小節3拍目で高まったエネルギーがポタポタ零れだすような弱めの弾き方にした。
※7小節最後のfisからその予兆を表した。
ユワンユワン鳴るその不安定な響きを敢えてずっと聞いていたくなる。
しかし次には半終止で前半の締めとなる属和音が控えているので伸ばし過ぎず丁寧に繋げる事を心がけた。
この連結は非常に繊細で1拍目の音を良く聞き2拍目に繋げた。
私は半終止としてこの2拍目を捉えているがバスはeから緩やかに順次下行し、次のパートである9小節1拍目主和音のバスaに繋がっていく。
この下行を1拍目のエネルギーの崩壊の余韻と捉え、デクレッシェンドしたが、新しいパートの始まりに向かい再びエネルギーを溜め勢いをつけるクレッシェンドにする弾き方もあるかもしれない。
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