1950年、コーヒー1杯20円、うどん1杯15円、対位法の訳本180円
最近暇さえあればフーガや対位法や和声や音楽修辞学の本(を翻訳したデータ)を読んでいて、昨日は降りるべき駅で降りるのを忘れレッスンに遅刻しそうになりました。
気をつけます。
その時読んでいたのは厳格対位法の後半、様々な対位法の書籍の紹介やその特徴の項目。
その中で1725年に創刊されたヨハン・ヨーゼフ・フックスの「古典対位法」についての紹介が目に留まりました。
教授と弟子の対話形式で進められ、教授が疲れて終わる、だそうです。
紹介は続きますが割愛。
読み物として面白そうだったのと別の教本のノータ・カンビアータという音型の紹介で別名「フックスの転過音」と書いてあり、人名っぽいけど誰だろう?と調べてみた事があったのです。
フックスについてのwikipediaのリンクをご紹介します。
ハイドン、モーツァルト、ベートヴェンと言ったウィーン古典学派もこのフックスの対位法を学んだと書いてあり、バッハもこの書籍を所有していたとか。
そんな訳で何となく気になったフックスの古典対位法ですが、既に教本は3冊あるし…と30分くらい悩みましたが教本と言うより読み物としての魅力を感じ探してみました。
すぐにAmazonで発見。
1950年(昭和25年)に出版された日本語訳が中古で一番安くて15,000円。(高いものは4万円近く)
うーん、ちょっとなあこれは…最近本買い過ぎだし…レビューを見ると完訳じゃないみたいだし、うーん。
また30分くらい迷って思い切って購入しました。
それが本日届きました!
歴史を感じる匂いがした。
当時のお値段は180円だそうです。ページ数は113ページ。
当時の180円は現在の貨幣価値だといくらだろう?と調べていてタイトルとなったわけです。
こちらで調べました。
銭湯が10円だったりで物によって価格の変化に差がありますが、当時に比べ現在は物価が10-20倍くらい上がっているのかな。
小学校教員の初任給は1949年は3991円だったそうです。
翻訳をした坂本良隆氏はベルリン音楽大学でなんとパウル・ヒンデミットの作曲の講義を受けていたそうでびっくり。
読み始めたのですが、思った通り読み物として面白い。
登場人物は2人。
作曲の先生のアロイスイス(パレストリーナがモデルらしい)
生徒のヨゼフ(著者のフックスがモデルらしい)
パレストリーナ(1524年又は1525年-1594)、フックス(1660年-1741年)と2人の生きた時代は違います。
フックスが実際にパレストリーナに作曲を学んだわけではない、と一応書いておきます。
この2人の対話形式で対位法について学んでいけます。
先生「次の定旋律に対位部を付けてみなさい」
生徒「第1音から第2音はこういう理由でこの音にしました。第2音から第3音はこういう理由で…」と丁寧に説明してくれ、配置すべき適切な音がどれか学べます。
台詞も戯曲的な部分があったり、2人のキャラクターもしっかりついていて大変面白い。
そしてわかりやすい。
これ現代だと「漫画で学ぶ対位法」にあたるのかもしれません。
パウル・ヒンデミットは著書「作曲の手引き」に「本書は或る時代(音楽の歴史?)における最初の正則作曲学であった。本書の出現以前は先祖伝来の方法で練習した巨匠の手工業的呼吸を徒弟に中継するだけであった」と書いているようです。
それがこの形式とは凄いなあ。
わかりやすく学んでもらおうと言う工夫に頭が下がります。
並達5度や8度が禁則になっている理由が初めてきちんと理解できました。
もちろん他の教本で得た知識があったからこその事ですが。
リュート組曲のサラバンドをギター譜にする際、どうすべきか長い間悩んでいた箇所も解決してしまった。
まだ途中ですが、思い切って買って良かったです。
因みに日本語訳の著者坂本氏はラテン語で書かれた原版本のほかにアルフレッド・マンのドイツ語訳本も参考にしたそうです。
その英訳版「The Study of Counterpoint: From Johann Joseph Fux’s "Gradus ad Parnassum"」がAmazonだと2024年3月現在3,216円で購入できるみたいです。
私は音楽修辞学で英語の本はいっぱいいっぱいなので避けましたが、英語がある程度読める方はそちらが良いかもしれません。
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