おむすびの 中身は様々 皆美味し

音楽理論のわかり難い説明が長く続くのでご注意ください。

先月NHK朝の連続テレビ小説「おむすび」を視聴なさっている生徒さんが、そのオープニング曲 イルミネーション/B'zの終わりが「半終止」に聞こえるとご報告下さり調べてみました。
NHK公式Youtubeチャンネルでその曲を聴く事が出来ます。

該当箇所は1分28秒くらいに鳴る和音です。
毎回、その和音の後ドラマ本編が始まる流れのようです。

半終止と言うのは、その調の属和音で、ある程度の音楽の意味を成すまとまりの区切りをつけることです。
文章に句読点を打ち、1つの区切りとする行為に似ています。
属和音で区切られるため、終止感は多くなく、主和音が欲しくなると感じる方もいらっしゃる、そんな終止形として使われることが多いです。

例えが合っているかわかりませんが、漫才でボケ担当の方がボケたのにツッコミ担当の方が突っ込まず、少しの妙な空気が生まれた後ボケ担当の方が新しいボケに進んでしまう感じでしょうか。
この例えで言うとボケがドミナント(不安定)である属和音、ツッコミがトニック(安定)である主和音。

来て欲しい音(ツッコミ)を待っているのにそれが来ない、モヤモヤした気持ちになる場合が多いです。
ただ、それが効果的な場合もあるという事で結構曲中で使われています。

おむすびオープニング1分28秒付近も、そんな半終止を感じたとご報告いただきました。
最初にリンクを貼らせて頂いた公式Youtubeチャンネルを聞き分析した結果、該当箇所は半終止ではないが半終止と感じる人がいても不自然ではないと結論付けました。

理由を説明していきますが、専門用語が出てきてしまうのが避けられません。
誠に申し訳ございません。

該当和音は主調イ長調と同じ主音「ラ」を共有する短調、
同主短調、イ短調のⅡの和音第2転回形根音高位(低い音からファ♮・レ・シ)となります。
性質はサブドミナントで半終止が成立する属和音のドミナントではありません。
長調において同主短調から借りてこられる和音を準固有和音と言い、借用和音の一種です。
こちらが楽譜です。
おむすび和音.jpg
それからこれを書くと私の聴音力を疑われてしまうと思いますが、最高音レは本当に弾かれているかはわかりません。
以前にも書きましたが私は倍音を実音として聞いてしまう事があり、今回もそのケースかもしれません。
鳴っている音の周波数を示すスペクトラムアナライザには最高音レの周波数である約1174.6Hzは出ているのですが、スペクトラムアナライザは倍音の周波数も表示してしまうので…
おむすび1分28秒周波数.jpg
そう言った理由で少し怪しい最高音レは省き、最高音をシとして考えたいと思います。


おむすびレ無し.jpg
さてこの同主短調のⅡの第2転回形ファ♮・レ・シ、性質:サブドミナントをなぜ半終止と認識する方がいるのか。
同じく借用(可能)和音である同主短調の属9の和音の根音ミと第3音ソ♯を省略するとシ・レ・ファ♮となり、それを展開すると全く同じファ♮・レ・シになる為ではないか、というのが私の考えです。
属和音の第3音は導音であり、通常第3音は省略しないのですが、トロイメライ12小節2拍目裏は第3音省略の属7が配置されるなど、例外はあります。
例外はあくまで例外ですが。
それにロック音楽をクラシックの音楽理論に当てはめるのも滑稽な話です。
しかしクラシック音楽の学習をしている方が得た感覚の説明をしなければいけないため、クラシックの音楽理論で語る事をご容赦ください。
私が初めて買ったCDは「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」で、B’zさんに敬愛の念もありますし分析する事に申し訳なさを感じます。

続けます。
仮に属9の和音としてみた時に第3音省略以外におかしな点を挙げるならば、第9音であるファ♮は低音位に来ないはずです。
それが私が該当和音を属9ではなくⅡの和音とした理由です。
しかし、この和音を強引に不完全な属9の和音としてみると、レとファ♮は必ず半音下行しなければいけない限定進行音として、主和音の第3音ド♯と第5音ミに解決するという性質を持ちます。

この同主短調のⅡを同主短調の不完全な属9と仮定し、次に主和音がくると考え楽譜にするとこうなります。
矢印が限定進行する半音解決の音です。
おむすび解決.jpg
楽譜に書いてある通り、限定進行音の関係から次に来る主和音は第2転回形で次に属和音が来てドミナントの性質を持ち、この後完全または不完全終止させるなら属和音→主和音基本形と締めくくるのが定石です。
しかし、ドミナントである主和音第2転回形であろうと半音解決が2つあるならば、終止感はそれなりにあると感じても不思議ではありません。
もちろん無いと感じる方もいると思います。
かなり微妙なラインです。

midi音源で申し訳ありませんが上の楽譜を再生するとこのような流れになります。
興味のある方は実際に弾いてみてください。
私が弾いた動画を貼れば良いのですが最近やる事が多く疲れていて…すみません。

上に書いた通り、微妙なラインですがもし「まあ、終止感はそれなりにはあるんじゃないかな」と感じた方がいらっしゃったならばこのイ短調のⅡの和音はイ長調において属和音の役割を多少でも担う響きがあります。
そして、そうならばその和音で曲が区切られれば半終止と感じてもおかしくない、となります。

説明が長くて申し訳ありません…
本当に理論と感覚を結び付けようと説明すると、私の説明下手もあって大変で大変で…

しかし、ここまではまだ序章に過ぎません。

この件が現在一部の生徒さんが取り組んでいるカデンツレッスンの成果の現れであると感じ、カデンツレッスンに取り組んでいる方々にメールでのアンケートを実施しました。
アンケート内容は「この動画の1分28秒で鳴っているところに終止形を当てはめるなら何終止だと感じますか。その理由も説明できる方はもしお手数で無ければお教え願えないでしょうか」というものです。
※カデンツのレッスンを受けているのにメールが届いていない方は、音大卒の方や長い演奏歴で既に和音や終止形の特徴を把握できている、と判断したため除外させて頂きました。
そんな面白そうなことをしているなら混ぜて欲しかった…とお感じになった方はレッスン時にお知らせください。
意外にも、このアンケートを面白いと感じてくださった方も複数いたので、ご迷惑でなければ次はお声がけさせてください。

さて、アンケートの結果ですが、終止形については9人中7人が半終止、1人が偽終止となりました。
もう一人の方はまだ完全終止と不完全終止しか取り組んでいないのにそれを失念してメールしてしまいました。
完全終止、不完全終止ではないのはわかるけれどもそれ以外を習っていないので答えられないという返答でした
その節は大変失礼しました。
この方は不完全終止のカデンツをお伝えしたその場で、「ちょうちょみたいですね」と仰ったので非常にこれからが楽しみです。
ちょうちょはまさに不完全終止で終わります。
皆様、ご多用の中ご協力誠にありがとうございました。

あくまでカデンツのレッスンの進捗を確認する目的のアンケート、実はメールをお送りした当初正解というものを設定していませんでした。
しかし、貴重な時間を使ってお答え下さった皆様にある種の正解をお伝えしないのは申し訳ないと考え、これまでに説明したような該当和音の特徴と共に後日お知らせしました。

まず、正解を設定するなら「完全終止、不完全終止ではない」が適切だと思います。
だからこちらの質問が悪かったです。
申し訳ございません。


ただ、敢えて無理にでも終止形を答えて頂いたのは、1年程行ってきたカデンツレッスンの進捗を知る良い機会となりました。
最初にご報告下さった方も含めれば8人が半終止と感じたとのご返答を頂き、カデンツレッスンの成果を実感でき、とても嬉しかったです。
偽終止と答えて下さった方も正解と言って良いと思います。
というのも偽終止のレッスンではハ長調のⅠ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅵと4種類の和音を弾いてもらっています。
この内Ⅵ以外全て長和音のため、最後に短和音Ⅵを弾いた時に平行調の短調に転調したような感覚を持つ方が何人かいました。
実際、ここで平行調の短調に転調する事も可能です、と説明しイ短調のカデンツ展開を披露した方もいます。

そして今回の該当和音は主調イ長調の同主短調、イ短調のⅡ第2転回形根音高位(低い音からファ♮・レ・シ)となります。
これは、転調感がある、短和音ではない減和音と言う和音だが不安定さを感じる、という2点において偽終止と感じる方もいるかもしれません。
ただし、減和音なのですがファ♮とレは長6度、レとシも長6度で開離配置であるため減和音と感じにくい人もいるかもしれないです。
感覚に関することなので「かもしれない」という表現を多用してすみません。

ここまでは終止形のアンケート結果となります。

次は〇終止と判断した理由。
大体皆様イ長調の主和音を次に弾くと終止感があるから、または次に主和音を弾きたくなるから半終止だと思う、とお答えくださいました。
小学6年生の子も「この和音には大事な音(主音)が無いから半終止かなあ」と理由まで答えてくれて大変嬉しく思います。
彼は時々鋭い事を言うのですが、今回も「このあとドラマが始まるから曲がきちんと終わらないでそのままおむすびっていうドラマに繋がるのかな」と言って私もなるほど、と納得しました。

おむすびの中身の好みは様々。
しかし、梅もおかかも昆布もツナマヨも明太子も塩むすびもetc.みんな美味しいです。
それと同じで和音のみならず曲に対する考え方、感じ方も人それぞれですが、全てに何か良さがあると思います。
自信を持って自分の音楽的感覚を養って頂ければと思います。

カデンツの練習はこのように曲中の節目の和音の響きの特徴を覚えるというのが初期の目標の一つでした。
今回の件でそれはある程度実現したと言って良いかもしれません。
さらに曲の節目の和音の特徴がわかるなら経過的な箇所の和音の特徴も感覚として覚えられる、その感覚を元に演奏表現も考えられるかもしれない、それが出来たならば曲全体の全ての和音の特徴もいつかは把握でき…と発展できないかと試行錯誤しております。


他にも目的はありますが、諸々含め、来年いっぱいを目処に資料その他レッスンマニュアルを完成させられればと考えています。
なぜそんなに時間がかかるかというと、確認作業が大変だからです。


一つのエピソードを挙げてみます。

先日バッハの曲中で使われる半終止において第7音の有り無し、更にフェルマータが付いているかどうかを調べるために取りあえず所蔵している楽譜から100曲を選んで調べました。
取り組んでいる曲の半終止に第7音があり、その和音にフェルマータが付いていたためバッハとしては珍しいと感じ、その意図を探ろうとしたのです。
自分の中でどう表現したいかは既に論理を持って存在していたのですが、それが間違っているかもしれないという不安を消すために行動しました。

第7音あり、フェルマータ付きの半終止が存在したのは100曲中2曲でした。
BWV1000 フーガ 54小節 基本形(根音低位)、第7音高位
6つのパルティータより 第5番 BWV829 プレアンブルム 86小節 第3転回形(第7音低位)、第3音高位
2%と少ないですが、取りあえず手持ちの楽譜で調べただけなので、次の10曲は全てこれが含まれているかもしれませんし、全曲調べない限り数字はあまりあてになりません。
この2か所も転回形や高音位が異なるため同じとは言えませんが、複数の演奏家のこの箇所の演奏を聴き、皆さんがどのように解釈しているかを考えました。

それらと自分の中にある情報から導き出した解釈は、2人の音楽の専門家の方に同意して頂けました。
ご協力誠にありがとうございます

そんな確認作業を行っているためどうしても時間がかかってしまいます。

ただ、これは私の夢とも言える目標なので丁寧に進め、時間はかかれどいつかは実現できればと考えております。


それでも毎日生徒さんの負担になるようなら止めようと考え、そうするならば自分の目標は全て無駄であり、レッスン料を頂いて行ったカデンツの時間分返金しなければとその額面を実際に計算したこともあります。


だから今回の皆様のアンケートの結果は皆様の音楽的な成長を実感し本当に嬉しかったです。
ありがとうございます。


私と同じような試みをした方なら分かると思いますが、本当に今回の成果が出たのも奇跡みたいなものです。
良い生徒さんに恵まれたことに心より感謝申し上げます。








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