2024年度発表会の様子

昨年2024年11月23日の発表会の様子をご紹介します。

当日参加できなかった、予定があり聴きに来られなかった方々。
今後、初めて参加する方にとってどんな様子なのかご参考になれば幸いです。

当日朝。
撮影機材、プログラムの他
予備の弦、予備のギター等もご用意しております。
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小ホールすぐ裏の控室3部屋。
部屋の前にお名前が書いてあり、自分の名前の書いてあるお部屋をご利用いただきます。
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控室の様子。
簡単なお菓子や飲み物をご用意しております。
練習もできます。
誠に申し訳ないのですが、足台や譜面台は各自でご用意ください。
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と、このように私はまず控室のセッティングをし、舞台打ち合わせ、録音・録画用のマイクやカメラのセッティングをして大体午前10:30。
リハーサル順1番の方がいらっしゃってリハーサル開始となります。

リハーサルは大体10分程度。
椅子、足台の高さ、譜面台使用の有無をメモさせて頂き、あとは自由に練習となります。
私はその間後日お渡しする写真を撮らせて頂きます。

今回は11人の方が参加という事でリハーサル時間の合計は約110分。
参加人数によってリハーサルの時間は変わります。

そして本番となります。

今回11人中10名の方が当日の演奏動画のご紹介の許可をくださいました。
皆様ご協力誠にありがとうございます。
参加者の方の演奏に触発されこれからの練習意欲が湧く、弾いてみたい曲を見つける、服装、お辞儀の仕方、譜めくりの仕方などとても参考になると思います。


これから演奏動画のご紹介となりますが、お一人を除き全ての方の演奏動画に一定時間文字が表示される編集をいたしました。
それらの文字を「ラベル」と呼ぶ事にします。
ラベルの種類は様々。
一瞬で消えるものから20秒ほど表示されるものまであります。

なぜ、他人様の演奏動画にそのようなラベルを貼ったのか。

今回、演奏動画には貼ったラベルはその人がレッスンで中心的に取り組んだ内容となっております。
だから動画を見ていたらこういう事に取り組んだのか、とある程度把握できるかと思います。

もう一つは私が音楽理論と感覚の融合、そこから演奏表現を作っていけるようになるレッスンを目指していて、それを助ける教材が作れないかと約2年前から考えていたからです。

特徴的な音の響きや音楽の節目、転調などを聞いて感覚的にわかるようになる、感覚の学習的な要素を持つ動画を作れないか。

転調する箇所で動画に〇長調へ転調と表示されたら「ああ、これが転調した時の感覚なんだ」とそれを覚え、演奏する時にそう言う感覚があったら雰囲気が変わる訳だからそれに相応しい演奏表現をする。
そんな学習の役に立つ動画。
そのプロトタイプがこれです。

この試みで一番効果があるのは演奏した本人ではないでしょうか。
「ここの終止上手くいかなかったなー、次はもう少し和音のバランスを調整し丁寧に収めよう」私は自分の演奏を聴いてそのような感想を持ちました。
表示されるラベルは1秒しか表示されないものもあります。
読み飛ばしても構いません。
いずれ私の演奏で学習用の動画を楽譜とセットで作るつもりです。

というか舞台での一発演奏でこういう動画を作るのは向いていませんね。

このラベルは演奏者ご本人は確認しながら何回か見て頂ければ、今後の更なる成長に繋がるかもしれません。
演奏者以外の方は、ラベルや間に書かれる文章はあまり気にせず、気楽に皆様の演奏を楽しんで頂ければ幸いです。

それでは発表会当日の様子を演奏動画と共にご覧ください。
全ての動画は限定公開となっております。


プログラムナンバー0 市川亮平
演奏曲:ワルツOp.8-4/A.バリオス 

この曲は、もう10数年教室に通って下さっている生徒さんのお祝い事。
その贈り物として演奏致しました。

テンポが少し遅めですが、その生徒さんはこのテンポが好きだと仰ったのでこのテンポに。
その速さがもたらすもの、優雅さや柔らかさを楽しんで頂きたい。
そんな気持ちで演奏致しました。
少しミスもあり、贈り物として相応しくないと思いますが、多分あの日のコンディションだと10回繰り返してもこれ以上の演奏は出来なかったと思うので申し訳ございませんがお納めください。
Hさん、おめでとうございます。

ラベルを貼る1番目の動画で、試行錯誤している段階だったためラベリングが上手くいっていなかったりしているかもしれません。
ABCパートは私が勝手に決めたものです。
漫然と弾くよりもこういったまとまりを把握し、それぞれの特徴を確認。
「ここはどういう役割だろう?」そんな事を考えながら弾くのも結構楽しいです。
今回そういった曲の取り組み方を知って頂きたいと考えて、このようなラベルの構成にしました。


No.1 小学2年生
荒野の果てに/聖歌・讃美歌より
君をのせて/久石 譲作曲 江部 賢一編曲(私が更に結構音を変えております)
クラシックギターを始めて丁度1年。
今回の舞台に臨みました。
初めてで収容人数約350人のホールでこの演奏。大物です。
荒野の果てには私の教室のスラーとセーハを学ぶ教材として使っています。
1年でこんなに上手くなるの?と驚いた方もいるかもしれません。

レッスン後「さようならー」と言って扉を閉めた後、「今日も楽しかったねー」とお母様と話す声が聞こえてきます。
ギターを弾くことを心から楽しんでいる、それが上達の秘訣でしょうか。
他には、お母様と一緒にグループレッスン形式で習っているのも大きな理由になると思います。
レッスンで学んだことをお母様と一緒に復習できる、だから練習の要点の取りこぼしが少ないのかもしれません。

使っているギターは弦長53センチの子供用のサイズのレンタルギター。
この辺りのサイズは選択肢があまりなく、彼が使っているギターは良いギターとは言えないのですが、音がとても綺麗です。
感覚的に綺麗な音、和音の響かせ方を掴んでいる気がします。

お辞儀の練習や譜めくりの練習もしっかり活かせています。
私のお辞儀よりずっと綺麗。
譜めくりもぜひ注目してあげてください。

終止形は現在少し始めたところ。
この演奏当時は学んでいませんでした。
これから学ぶものが自分の演奏動画に表示されたら「これはなんだろう?」と気になって学ぶ意欲に繋がるのではないか、と思いラベルを貼りました。

「君をのせて」に表示される「大楽節」といったラベル。
曲と言うのは2小節程度の小節的動機、それが2つ合わさった小楽節、さらに小楽節が2つ合わさった大楽節というようにまとまりに分けられ作られていることが多いです。
※カルカッシのエチュード等にA、Bと書かれていますがあれは大楽節(8小節)ごとのまとまりに分けられ、1つ目をA、2つ目をBとしている場合が多いです。

それら楽節の終わりに、カデンツ練習で学ぶ、終止形と呼ばれる音楽的ストーリを区切る「句読点」のようなものが使われます。
終止形がわかると曲を構成する「まとまり」がどこからどこまでなのかがわかる、そのまとまりの持つストーリーも伝えられるような演奏ができるようになります。

音楽的なストーリーというのは
前奏:主和音を弾き、今からこの調の曲を弾きますよー、不協和になる音も入れて結構緊張感や盛り上がる曲ですよーと言う紹介
第1大楽節:初めにこの楽節の最高音シに向かい、緩やかに降りてきて比較的穏やかに続く。
      最後はⅤの副5の和音から属7の半終止上行アルペジオで少し盛り上がります。
      まだまだ始まったばかり、これから色々楽しんでいってね
みたいな感じです。

今回は大楽節や小楽節と書いた楽譜を一から作り、それぞれの楽節が持つ音楽的なストーリーに合わせて強弱や音色を決めていきました。
この子の「君をのせて」はその成果が出ている、と言って良いかと思いますが皆様はいかがでしょう。

以下、表示されるラベルの補足説明となります。
・sul tasto(スル・タスト) 指板上で弦を弾くという意味の指示記号。柔らかい音色を出す時に使う奏法。
              私は初めて間が無い頃はサウンドホール上で弾けば良いとしています。

・sul ponticello(スル・ポンティチェロ)下駒周辺で弾くという意味の指示記号。輪郭のはっきりした音、硬めの音を出したい時に使う。
                    私は初めて間が無い頃は右手がサウンドホールに被らなければ良いとしています。

・normale(ノルマーレ) 通常の場所で弾くという意味の指示記号。タスト、ポンティチェロの中間。
             右手親指がサウンドホールに被り、他の指はホールの右側にある状態としています。


No.2 小学2年生
海の見える街テーマ/久石 壌
暗闇Ver.2/市川亮平
今回2回目の舞台演奏となります。
この子も演奏はもちろんお辞儀と譜めくりまでとっても綺麗です。

前回の演奏曲はパウパトロールというアニメのオープニングでした。
今回はそれに比べ大分難しい曲に挑戦しました。
スラー、セーハ、に加えハーモニクスという技法まで使っています。

「海の見える街」
イントロとテーマだけに絞っています。
軽快な曲調の雰囲気が出ており、高音、低音、内声と別々に進行する部分も良くバランスをコントロールして弾けていると思います。
この子の弾いている編曲は低音開放音を使うために無理に和音の転回を変えている所があります。
少し原曲と違って聞こえるという方もいるかもしれません。
そのあたりご了承ください。

「暗闇Ver.2」
この子が「暗い曲が弾きたい!」と強く願うので作った曲です。
自分の曲を舞台で弾いてもらうというのはとても嬉しいものですね。
弾いてくれてありがとうございました。

この曲でセーハ、スラー、そしてハーモニクスを学んでもらいたい、と考え組み込んだ、言わばエチュードですね。
この子の曲の雰囲気に対するこだわりは強く、「ここはこの和音で良い?もっと暗い和音にしたい?」そんな感じで曲を作っていきました。
その判断ができるという事は、和音の性質をある程度分かっているという事になります。

お兄ちゃん(次にご紹介)もギターを習っているですが、その音を幼いころから聞いていて、和音の響きの特徴が何となくわかるようになったのではないかと感じました。

2:26あたりからの緊張感のある和音が効果的に聞こえるよう、強弱と速さを変えたりもして、表現の工夫もできるようになってきました。
sul tastoはサウンドホールの上で弾ければ良いのですが、この子は頑張って指板上で弾いていますね。
新しい技術を吸収してこれからどんどん上達していくと思います。


No.3 小学6年生
ラグリマ/F.タレガ
11月のある日/L.ブローウェル
この子の上達が今回ラベルを貼るきっかけとなりました。
音楽理論の簡単な学習も始め、今回それらを演奏で意識してもらいました。

信頼する、音楽的感覚が非常に高いプロの音楽家の方にもこの子の演奏を聞いてもらい、終止形の学習が演奏に反映されているか確認して頂いたのですが、その成果は確実に出ていると言って下さいました。
ありがとうございます。

1年生から学んだ場合の平均的な小学生のレッスン課程はこのあたりまでを目標にしたいな、と一つの基準にしようかとも考えております。

「ラグリマ」
この子のラグリマを舞台で聴いた時、自分の演奏かと本当に思いました。

強いて言えば音色の変化をもう少し変えても良いと思いますが、良く弾けていて言う事が無い感じです。
2番目の女の子は家でこの演奏を聴いているわけですから、和音や調の響きにも敏感になりますね。

ここまでレッスンで学んだことを演奏で明確に表してくれてとても嬉しく思います。
ありがとうございます。


「11月のある日」
この曲も良く弾けています。
ラグリマと同じで緩急や終止形の間が重要な曲。
こちらもある一定の基準に達していて言う事が無いですね。
素晴らしい演奏です。

流麗なイ長調から陰が差すようにイ短調に戻る箇所。
きちんと転調を表現しようと音色や強さ、間を自ら工夫していたのがとても記憶に残っています。
転調部分にラベルを貼っておりますので、ぜひ彼の創意工夫の成果を確認してみてください。

彼は特にコンクールなどを目指すでもなく、一つの趣味としてギターを習っていますが、ここまで弾けたら特技はクラシックギターです!と堂々と言って良いかと思います。

主よ人の望みの喜びよを現在弾いていますが、それが終わったら活発な性質の曲も聞いてみたいなあと思います。
ただ、好みがあると思うので無理はしないで選曲をしていきましょう。

ワルツ/F.タレガ
6弦をD(レ)に調弦して弾く3拍子の優雅なワルツです。
ニ長調だと主音と属音を低音で弾く時両方開放弦が使える調弦。
しかし、その分前の小節の残留開放音(造語)が残り、今の和音の響きに影響を与えてしまう事もあります。
そのためpの側面消音で消音を行うのが大変だったと思います。
残留開放音の処理については人それぞれ、ご本人が気にならないなら消音しなくても良い、というスタンスです。

タレガは和音の密度、重さのコントロールが上手い作曲家だと思います。
この曲は軽快さが非常に魅力的で、装飾による華やかさ、指揮棒横1線で3拍子を表す事もあるワルツらしいリズムがよく出せていると思います。

1:42あたりの完全終止からその主和音のレがドに変わりト長調属和音となり転調する。
よくある転調パターンかもしれませんが、すっきりとして潔いその転調がこの方はお好きで「ここの転調良いですよねー」とレッスン時2人で話していたのが良い思い出です。
この曲は素直で終止形がわかりやすく、そう言った部分の学習にも適しているかもしれません。
お気に召した終止形があったらお教えください。
なぜ魅力的か話せるかもしれません。

それから1:43の「特別な6度の上行跳躍」と言うラベル。
音の変化は音階的に上がる下がるというのが一点。
これは順次進行と呼ばれます。
もう一つはドからミ、ドからファと言った具合に階段を1段、2段飛ばしで上がったり下りたりするような動き。
これを跳躍進行と呼びます。

音楽の長い歴史の中でこの跳躍進行に特別な意味が持たされるようになりました。
それについてはレッスンでお伝えしますが、今回ご紹介の動画にそういった特別な跳躍進行が見られた場合、ラベルを貼るようにしております。

この曲だと6度の跳躍がそれです。
この方もその音の動きに合わせてきちんと表現できていると思います。
気になった方はその箇所を何回か繰り返し聴いてみてください。

素敵な演奏をありがとうございました。

No.5 中学2年生
エンデチャとオレムス/F.タレガ
鐘の響/J.ペルナンブーコ
「エンデチャとオレムス」
エンデチャ(悲歌、哀悼歌)とオレムス(祈り)は私の持っているタレガ全曲集には2つのプレリュードという副題のようなものがついています。
小品ながら非常に魅力的な曲です。
ただ、特にエンデチャは15小節の構成ながら様々な要素の詰まった、理解するのに少し苦労する内容だと感じました。
理由は非和声音が効果的に終止形を作る和音に導入され、終止のズレみたいなものが意図的に配置されている。
そして単音+和音で動機が構成されている。
そんなところでしょうか。

音楽的解釈が非常に重要な曲です。
彼もこの曲に一番苦戦している印象でした。

なんとかこの曲を理解して演奏して欲しい、そんな思いからこんな分析譜まで作ってしまいました。
私の作る分析譜は若干心の闇を感じる方もいるみたいですが、ひかないでくださいね。ひくのはギターだけで。

ただし、分析譜が完成したのが本番3週間前。
今からこれを渡しても混乱するだけだよなあ、と結局渡せませんでした。
レッスン内容は分析譜を軸に組み立てましたが。

そんな思い出のエンデチャ。
単音+和声の処理。
終止のズレ。
前半に比べパターンの変わった後半の動機や音型の反復進行。
とても良く弾けていて分析譜を作った甲斐がありました。

オレムスはエンデチャに比べ、シンプル。
和声がわかりやすく旋律と伴奏が同じパターン・配分で進行していくのでバランスをとって弾くのもやり易かったのではないかと思います。
オレムスでの学習で大事にして頂きたいのは跳躍進行。
あそこをいかに丁寧に意味を込めて弾くか、そこがこの曲を美しく弾く大きなポイントになると感じました。


「鐘の響」
エンデチャとオレムスの同主長調ニ長調で同じ6弦D調弦。
性質は爽やかで軽快。
前2曲との対比もあって良い曲を選んだと思います。
後で小さなミスを気にしていましたが、そんなものは気にならない良い演奏でした。

やはり6弦D調弦で出てくる残留開放音の処理が大変だったと思います。
それを行うを選択すると右手のフォームが変わり、少し低音が鳴らし難くなってしまいます。

そんな状況の中でも、低音が和音を支える土台として良く弾けているのではないでしょうか。

彼の今回の挑戦であり、演奏の良い所。
小品ながら性格の異なる3曲をきちんとその性格をとらえ、聞く人に伝わるように弾けている所です。
明快で曖昧さがあまりない。
今回の彼の成長がとても嬉しいです。

M.ラベルの亡き王女のためのパヴァーヌをギターで弾くことが目標らしく、今はそれに向けて頑張っています。
と言ってもあれをきちんと弾くとなると和声感と技術が大変重要になるのでまだ下地の段階。
でもいつか舞台でその曲を聞けることを楽しみにしております。


No.6
鉄道員/C.ルスティケッリ作曲 佐藤しげかつ編曲
クラシックギターを始めて約1年。
それで舞台に上がるというのは中々に勇気がいる事だと思います。
スラー、セーハ、ハーモニクス、ビブラートなどを学び、それを活かせる曲としてこの曲を舞台で弾く事を提案致しました。
特徴としては上行跳躍進行があり、度合いを変化しつつ定期的に繰り返されるそれが、旋律の美しさや緩急を生み出していると感じます。

それをラベルのテーマにしました。

レッスンでもそれについては言及し、そのある種の「理」に対して「やっぱりそういうのが音楽にもあるんですね」と納得してくださったのが嬉しかったです。

特にテーマの属音から主音への上行跳躍での開始。
先にご紹介したエンデチャも同じ開始のパターンですし、他にもヴィラ・ロボスのプレリュード第1番、小ロマンス、有名な所でトロイメライなどアウフタクトでの開始のパターンとしてよく見かける定番と言えるかもしれないものです。
同じパターンで始まる曲でもテンポ、テーマによって表現は変わりますが、このパターンの存在を記憶しておくことは他の曲を弾くのにもおおいに役に立つと思います。
だから、1つ1つの跳躍をとても丁寧に弾いて下さったこの方の演奏が大好きです。
安定した和音の響き、不安定な和音の響きの特徴を理解しようと繰り返し弾き比べたり、音楽に誠実で嬉しく思います。

まだまだ始まったばかり、様々な曲をギターで楽しんで頂ければと思います。


No.7
バレット/M.M.ポンセ
カヴァティーナ/マイヤーズ
2曲共セーハが多く、左手の負担が大きく、右手も細かな表現が要求されるため難しい2曲です。
しかし、それ故に美しい曲でもあります。
性格の異なる対称的な難曲2曲をしっかり練習し、舞台に活かしてくださいました。
次の曲ももうある程度できていて、また次回を楽しみにしております。

ご参加、誠にありがとうございました。


No.8
無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュード BWV1007/J.S.バッハ
原曲ト長調 編曲ニ長調 6弦D調弦
有名なバッハのチェロ曲を6弦D調弦で弾いていらっしゃいます。

原曲のチェロの演奏も聞いて表現作りをしたりと勉強熱心な方です。
この曲の1-4小節はカデンツの保続低音の例にしているので1ー4小節の低音が全てレである事を意識して聴いてみてください。
実は色々な曲で使われているこの作曲技法。
それがもたらす感覚を覚えておくと曲の表現作りに説得力が出せると思います。
範囲が長いのでラベルとの相性も良いですね。

全体を通して低音が重要な曲ですが、この方の低音はどっしりと安定して鳴り響き、曲全体を支えていて聞いていて気持ちが良いです。
チェロの演奏を参考にしたというのも納得できます。
やや緩やかなテンポの演奏ですが、この低音のお陰でそれが自然に感じます。
大きな客船で大海原を航海しているようなイメージでしょうか。
最後に属音の保続低音と長い半音上行があります。
ともするときつくなりがちなその部分も優雅に仕上げていて、大人の演奏と言った印象を持ちます。

この曲に対する自分のイメージをしっかり作り上げ、それを聞く人に丁寧に伝えようとしている。
聞いていてそう感じました。


No.9
ベネズエラ練習曲集より第3番、6番/E.シルバ
練習曲に収まらない魅力的な2曲です。
「練習曲第3番」
ラベルも沢山貼られている4度の上行跳躍を中心に旋律が動いていき、それをどう表現するかが悩みどころで魅力でもあります。
第6番もそうですが、この方は跳躍進行の表現が非常に上手く、既に自分のものにしていると思います。

また、和音の特徴を掴んだ鳴らし方も同様で、聞いていて音楽的ストーリーがわかりやすく伝わってきます。
主調ニ長調で進行し、最後は2小節ニ短調の和音が出てくるのですが、それにより私はニ長調の主和音で終わる時ピカルディ終止を感じます。

レッスン時この方にそのようにお伝えしたら「もうピカルディにしか聞こえませんね」と仰って2人で笑っちゃいました。
そういう終止形の話や和音の話ができるくらいにはカデンツレッスン進んでおります。
楽しいです。

「練習曲第6番」
作曲者のE.シルバさんはそれぞれの曲に明確にテーマを設けていると思います。
この曲のテーマの一つは音色だと思います。
楽譜に
sul tasto 
sul ponnticello
normale
sulla bocca
と細かく4種の右手の撥弦場所が書いてあり、音色の細かい変化の練習曲である事が伺えます。
sulla boccaはサウンドホール上で弾くことです。
うちの教室ではそこはsul tastoに含めているので、より細かい音色の使い分けを学べる素晴らしい練習曲です。

ただ、練習曲と言うより舞台での演奏曲として弾くわけですので、あまりその指示に従わなくても良い。
音色は自分の感覚の赴くまま、自由に決めて良いという方針で進めました。

オクターブ跳躍で動機が始まる事が多いですが、その表現もやはり自然で美しいです。
オシャレと言う表現が適切な和音進行を見事に弾きこなしていて、華やかなパリっぽさを何故か感じてしまいます。

またぜひ素敵な演奏を聞かせてください。

No.10
リベルタンゴ/A.ピアソラ作曲 飯泉 昌宏編曲
もう3年ほどレッスンさせて頂いております。
うちの教室に来られる前も何人かの素晴らしい先生方に習っていて、既に自分の音楽をお持ちの方です。
ギター歴も長く、色々な舞台での演奏経験があり、難しい曲を堂々と演奏してくださいました。

和音の響かせ方、音の明瞭さ、様々な奏法技術、動機を正確に特徴をとらえて弾く。
どれも高いレベルで弾けていらっしゃいます。

さて、この方だけ動画にラベルがありません。

それは私が今目指している理論と感覚の融合から演奏表現を導き出す、という音楽的アプローチに近いものが既に身に付いているためです。
そういったレッスンを行う必要がない、という事です。

そう感じたのは、どの曲もレッスンをする前から、既にある程度曲が完成しているためです。

何故そういう事が出来るようになったのか伺いました。
すると、その方の演奏表現を作るにおいて、一番大きな核となるものは「聞く」ことのようだとわかりました。

バッハのような作曲家の曲もアカデミックに弾けていて、それができる理由は「特定の奏者の演奏を参考にしました」という事でした。
その特定の奏者の方は、やはり理論と感覚両方からのアプローチで音楽を作る方で、それを聞いて覚えてしまったためその様に弾けるようになったと。

皆様にもそうやって高いレベルまで到達した方がいる事を知って欲しく、ある種のシンボルとしてこの方の演奏動画にラベルを貼らない選択をしました。

今までの流れから私は理論重視で考えていると思われるかもしれません。
しかし、あくまで感覚を学ぶために理論から「保続低音」や「終止形」といった感覚を学ぶために貼り付ける「ラベル」をお借りしてきただけです。
ラベルが無くても良いのですが、ある方が特定の響き、終わり方、音の動きから得る感覚に名前が付き、感覚を覚えやすいと思います。
この方のように感覚を磨ければ理論は使わなくても良いかなあ、というスタンスです。

勿論、私自身は作曲家の方にアナリーゼをもう2年半ほど習っており、音楽理論を学ぶ事も楽しいし、理論を通して音楽を見た時の発見や学びは自分だけの宝物のように思っています。
9番の方のレッスンのように「ここピカルディの要素どれくらいですかね」と話せる方がいる事も大変嬉しいです。

しかし、音楽の学び方には幾通りも道があり、結局進んでいくとどこかで合流して1つになるような気がします。
1つの視点に偏らず、様々なルートから自分の音楽を作っていく。

この方は自分の選んだルートを楽しみながら進んで、ある域まで達した。
演奏からそういう事を学んで頂ければと思います。


No.11 高校1年生
Fantasia Op.19 Brillante e Facile/L.レニャーニ


作曲家ルイジ・レニャーニは古典派後期からロマン派に活躍したイタリアの作曲家。
この曲はソナタ形式というクラシック音楽を代表する作曲的形式で書かれています。
非常に重要なこの形式のポイントを中心にラベルを貼りました。

ソナタ形式は大雑把に言うと提示部-展開部-再現部と3つのパートで構成されて作られた曲の形式です。
曲の設計図がそれなりに明確にある形式とでも言いましょうか。
彼は去年受験にも関わらずコンクールも参加し、この曲で2024年度ジュニアギターコンクール高校生の部第2位に入賞を果たしました。
本当に素晴らしい努力です。

本来ならそろそろソナタ形式の曲を弾く時はその構造を理解して弾くべきです。

しかし、彼にはまだソナタ形式についてお伝えしていません。
こちらで把握してレッスンはしていましたが。
受験勉強でとても辛そうだったので、新たに勉強を増やすのは気が引けたからです。

そうしていたらタイミングが掴めず今に至ってしまいました。
そこで今回自分の演奏でソナタ形式を学んでもらおうとラベルを貼り、簡単ですが資料も用意しました。

演奏に対する感想的な内容もそこに書いてありますが、この場でもある程度書かせて頂きます。

序奏のイ短調の濃いドミナント感、半音進行の箇所をとても効果的に弾けています。
この曲は繰り返しを含めず9か所の休符にフェルマータが付いています。
レニャーニがその1つ1つに込めた想いは異なるかもしれません。
しかし、私は前の和音や調性の持つ雰囲気のリセットを狙って配置されているように感じ、間を作っていきました。

提示部は第1,2主題の性格や移行部、主題結尾などどれもその特徴を良く捉え弾けています。
上のPDFは記事公開2時間前に急いで作ったのでざっくりとしていますが、もし読んで下さったらそれぞれの箇所の性格が少しわかるかもしれません。
彼はそれを表現出来ていると思うので、ぜひご一読の上聞いてみてください。

展開部も不安定な調性や緊張感を出せ、主題労作も伝わりやすい表現で弾けていると思います。
これは私が自分自身に言うべき言葉ですが第1主題をモチーフにした主題労作は、まだ工夫の余地があるかもしれません。

再現部は今までの流れから、提示部に比べリラックスして伸び伸びと弾けているように思います。
第2主題のやわらかさも素晴らしいです。

終結部はオリジナルの表現でデクレッシェンドをいれてくれ、それが効果的にその動機の魅力を引き上げていると思います。
作曲者の指定した表現を説得力をもって改変するのは難しいですが、成功しています。
ダイナミックな勢い-調性変化アクセントのずらし-ダイナミックな勢いで終わる。
曲全体を締めくくる良い終わり方が出来ています。

ソナタ形式らしいと感じさせる演奏を高校1年生で出来るなんて凄い事です。
素晴らしい演奏をありがとうございました。


皆様、ここまでご覧くださり誠にありがとうございました。
これで2024年11月23日の発表会の様子のご紹介を終わります。
ご参加者の皆様の演奏を楽しんで頂けたと思います。

ラベルについては視聴の邪魔だという方もいらっしゃったと思います。
大変申し訳ございません。
皆様のご感想を伺い、大いに反省し今後に活かします。

次回は2026年1月10日(土)にさいたま市文化センター小ホールを予約いたしました。
もしかしたら変更があるかもしれませんが、ご興味のある方は宜しくお願い致します。
※次回の発表会は止むを得ない事情により、延期する事となりました。
 予定日が決まりましたら改めてお知らせ致します。(2025年3月10追記)

音楽は一人で自分なりの好きな演奏を部屋で楽しむ、今回のように舞台で演奏し他人に聞いてもらう、楽しみ方は様々です。
色々な楽しみ方があるから面白く、奥が深い。
これからも一人一人自分のペースで、楽しみながら音楽を愛し、育んで頂ければと思います。

市川亮平

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